石黒浩「アンドロイドは人間になれるか」を読んでみた

本日の内容


今日のは長いなあ。

石黒浩「アンドロイドは人間になれるか」を読んでみた

石黒浩さんの「アンドロイドは人間になれるか」を読んでみました。

おもしろい本でした。

「他人の気持ち」が知りたくて研究をはじめる

「他人の気持ち」がわからない人

石黒浩さんは、人間そっくりのロボット「ジェミノイド」を作った人です。
http://prnavi.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/04/geminoid.jpg

この人、ちょっと変わってる気がしません?

ふつう、ここまでそっくりのロボットを作ろうと思わないのでは?横から見ていて気味が悪いぐらいなのに、自分のを作って平然としているのもちょっと、という気がします。

見た目もちょっと怖い感じで、微妙に人のことを考えなさそうな感じだし。

「他人の気持ち」をはっきりさせる方法

実は、石黒さんは「他人の気持ちがわからない」タイプの人であるようです。

ぼくは、こどものころに「他人の気持ちを考えろ」と言われたことがある。
意味がわからなかったので、どういうことか質問してみた。
いくら聞いても納得できる答えは返ってこない。
結局「他人の気持ちを考える」というのはどういうことか、誰もわかっていないのだ。
世の中で、これほど大事なことはないと言われているのに、実はわかっていないのだ。

なんてことだ!

というのが、石黒さんがこの研究を始めた理由だそうです。

その後は、はっきり書いてあるわけではありませんが

じゃあ、まず、人間の形だけ作ってみて、それを実際の人間と比べてみよう。
なにか、足りないものがあるはずだ。
その「足りないもの」が「人間(他人)の気持ち」であるだろう。

では、実際に人間そっくりのロボットを作ってみて、「足りないもの」を埋めていこう。足りないものを埋めきることができたら、それが「人間の気持ち」だ。
これなら「人間の気持ち」がはっきりした形で手に入る。ひいては「他人の気持ちを考える」ということが、わかるじゃないか。

という考えで、ジェミノイドから始めて、ロボットや人工知能や心理学・認知・哲学などを研究しているようです。

(ここで言う哲学とは、「そもそも『話が通じる』とか『相手を人間として認識する』『自分と同じこころが、相手にもある』ってどういうことなんだ?何を満たせば『話が通じる』とか『相手を人間として認識する』『自分と同じこころが、相手にもある』と言っていいんだ?」みたいな、チューリングテストみたいな話のようですね。抽象的な話ではないところが、この人らしいです。)

おもしろい研究成果

こういうことを考えながら研究をすると、おもしろい研究成果・知見が得られます。

外見を似せた時の周囲の反応がおもしろい

外見を高いレベルでそっくりにしたり、声や表情や体の動きを人間に似せることは、見ている人間にとって極めて大きな影響をあたえるそうです。


人間国宝になった落語家、桂米朝さんのアンドロイドを作ったところ、観客はほとんど本人と変わらないという印象を受けるそうです。本人の口演と同じように笑うんだとか。

さらに、楽屋に米朝アンドロイドがあると、お弟子さんたちが異様に緊張するんですって。ホントかなあ、と思うのですが、写真を見ると、そういうこともありうるかなあ、とも思います。

http://img01.osakazine.net/usr/kome88/IMG_0008.JPG

相手の話を理解しない会話ロボット

「コミューとソータ」という、大きめの人形程度のロボットがあるそうです。

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150120-2/icons/zu2.jpg

彼らは人間と会話するのですが、なんと、音は聞いていても言葉の内容は理解してないんですって。
そんなんで会話できるのかよ?と思いますが、「2人で会話が成り立てば、もう一人を巻き込んでも違和感がない」ということがわかったんだそうです。

セリフの書き起こしを読んでみると、たしかにそうなってます。


うーむ、「人間とは何か」を考えながら実験してると、こんなことがわかるのか。すごいなあ。

人間よりロボット相手のほうが気楽なときもある

デパートで、服のアドバイスをするアンドロイドを作ったところ、人間より成績が良い場合があったんですって。
http://livedoor.blogimg.jp/ko_jo/imgs/2/4/24b25e0c.jpg

「そりゃ、服に関するデータ量がケタ違いだからだろ?」というのは早計で、お客としては、相手がロボットだとわかっていると、相手の気持を考えないで済むので、納得行く相談ができるからだそうです。


例えば「そういうの好みじゃないんだよね」「うーん、それも違うな」などと言ったあとは、好みじゃないのを勧められてもつい「まあ、そのあたりかなあ」とか、言っちゃいません?

相手がロボットだとわかっていれば、いくらでもダメ出しができるわけです。


また、人間は、相手の気持ちを推測するときのかなりの部分を、ノンバーバルコミュニケーションが占めています。それがないのも、大きいのではないかと、私は思います。
(ノンバーバルコミュニケーションとは、言葉によらない情報伝達のことで、表情やしぐさなどには収まらない、相当微妙なものもあります。例えば、誰かが玄関を出るのをちら見した時に、その人が帰るつもりなのかコンビニに買い物に行くつもりなのか、無意識に判断しているそうですよ。)

店員が隠そうとしても漏れてしまう「いいかげん決めてくれないかなあ」とか「この客は趣味が悪いなあ」「おまえに似合うわけないだろ」みたいな感情がまったく漏れない(最初からない)、というのは、やっぱり利点になるでしょう。


これと同じ理由で、職業安定所の相談係も、ロボットのほうがミスマッチ率が下がるという傾向が出ているとか。

抽象的な外見なのに人間より好まれるロボット

テレノイドというロボットを作ったそうです。携帯電話が埋め込まれているぬいぐるみみたいなものです。

http://gqjapan.jp/uploads/conv/2012/06/ishiguro_7.jpg

不気味としか思えませんが、ちょっと会話すると誰もが夢中になってしまうという、不思議なロボットです。

モダリティ(声・外見・においと言った認識要素)は、2つ以上になると相乗効果を発揮する。今まで作っていたジェミノイド他は、モダリティを極めて多くしたのものだ。だったら、どんどんそぎ落として、2つだけにしたらどうなるだろう?という発想のようですね。

結果、よけいなものがないのは好影響をもたらすらしいですね。テレノイドを改造して、声の大きさに合わせて振動する、抱きかかえて会話するロボット、ハグビーを作ったら、ものすごい効果があったそうです。

子どもたちは夢中になり、デンマークでは高齢者が喜んで使ったそうです。研究室でハグビーを通して男女を会話させると、30分もすると真っ赤なゆでダコになり(笑)、カップルが何組もできちゃったとか。


さっきの「ノンバーバルコミュニケーションを消す」という話は私の考えで、石黒さんは書いていないのですが、ちょっと似てる気もします。

人間を理解するのに有効な手段かもしれない

私は、これらを読んでいると、人間とはいかに騙されやすいのか、なおかついかに神経質で繊細なのか、を思います。

外見がそっくりなら、ロボットだとわかっていても緊張してしまう。ちょいとモダリティを操作されれば、見たこともない相手と恋におちてしまう。状況によっては、話を聞いていない相手と会話していても気づかない。

かと思えば、相手の気持ちを推し量ったりノンバーバルコミュニケーションを敏感に感じ取ったりして、つい遠慮してしまう。


ファーブル昆虫記には「昆虫は、本能の力によって素晴らしいことをやってのける。それと同時に、ちょっと状況が変わるととても愚かしくなる。昆虫にはこの2つが同居している」とありましたが、人間も似ているなあ、と思いました。やっぱり、人間も生物なんですよね、なんて。


それはそうと、こういうことを積み重ねていくと、「人間とは何か」とまでは行かなくても、人間の特性に対する興味深い知見が得られるのではないかと思いました。








おしまい。